管理会計で息を吹き返した老舗菓子店の具体例【経営悪化状態からの復活劇】
こんにちは、ファーストステップ株式会社コンサルタントです。
皆さんは「管理会計」という言葉を聞いたことはありますか?
「財務会計」と対になる言葉であり、「財務会計」は金融機関等の外部報告という意味合いがあるのに対し、「管理会計」とは、自社の経営に活かすための会計のことです。
「財務会計」のようにB/S、P/Lの表記ルールなどに縛られるのではなく、自社の仕入れや原価、利益などを実態に沿って把握するために作るのが「管理会計」です。この管理会計がないと、経営が「どんぶり勘定」になってしまいがちです。
なんで利益が出ないのか分からない…という会社は、この「管理会計」が出来ていないケースがほとんどです。今日は具体的な事例を紹介しながら、管理会計の導入の仕方やその効果についてご紹介していきます。
管理会計の具体的導入事例―老舗菓子店の再建
地場で3代続く銘菓で有名な、老舗お菓子製造販売業X社。
2代目社長の時に成功を重ね、続々と新店をオープン。今では30店舗の経営にあたっていたものの、次第に経営が悪化。売上は15億→6億円規模に縮小。自社ビルがすべて金融機関に根担保で取られている状態で、手元にあるのはわずかな預金だけ…。
窮地に立たされた3代目社長から、これから新商品を全国展開することでなんとか立て直しを図りたいが、どうしたものか…ということで当社にご相談がありました。
なぜ、赤字を垂れ流し続けてしまったのか…?
この老舗菓子屋X店の問題の根源は、「長年、なぜ経営が上手くいっていないのか分かっていなかった」という点にあります。もちろん、財務会計上でも店の”売上高”を把握することは可能です。
しかし、管理会計を導入していないため、店舗として採算が取れているか?という視点で考えることができていませんでした。
この店は月あたりいくら売らないといけないのか?という予算や売上目標といったものが定められていませんでした。
30店舗の中には従業員5,6名で回しているところもあれば、20人ほどのところも。営業時間も違いますし、地域によって時給にも差があります。取り扱い商品だって微妙に異なっています。
だから、店舗ごとの採算が見えないために「なんとなく儲からない」状態を放っておくことになったのです。
まずは、管理会計を導入して実態に合った数字を見る
財務会計だけだと、店舗ごとの採算を実態に合った形で把握することができません。
それが、管理会計を導入することで、店舗ごとの1日・1週間・1ヶ月という期間でどれだけ利益を出す必要があるかということが初めて見えていきます。
想像してください。
「全店舗で年間7億円売るぞ!」という漠然とした目標を立てるだけでは、現場は高いモチベーションを持って挑めないですよね。なんで7億円要るの?じゃあウチの店はいくら売ればいいの?となりますよね。
単純に店舗数で目標売上を割っても、大規模店や駅前店と郊外店を一緒にされても、不満が募るだけ。
そもそも、売上を目標にすること自体がおかしな話です。だって、利益が得られなければいくらたくさん売っても意味がないからです。
たとえば、Xでは日常的な業務フローとして、暇な店のスタッフを忙しい店に「応援」として時々来させていたのですが、そういった他店からの「応援時間」も人件費として入れて勘定することが大切です。そうすると、きちんと各店舗の「時間あたり収益」が計算できるようになります。
時間あたり収益を把握することの大切さ
採算性を知るために必要なのが、「時間あたり収益」です。
売上ー原価や人件費=付加価値
付加価値÷時間=時間あたり収益
となります。つまり、この「時間あたり収益」を良くするために
- 売上を上げる
- コストを下げる
- 時間数を減らす
この3つに取り組むようにするのです。
店舗ごとの「時間あたり収益」が分かると、KPI(重要業績評価指標 キーパフォーマンスインディケーター)の設定ができるようになります。KPIとは、簡単に言うと目標が達成されているかどうか?その度合いを評価するための指標です。
Xの場合は、当時の最低時給(約1,000円)の2.5~3倍ほどを時間あたり収益の目標値に設定しました。
なぜ2.5~3倍かというと、給料、ボーナス、昇給、税金、内部留保を含める必要があるからです。
あとは、実際にかかる人件費を引けば各店舗ごとのコストが分かります。各店舗の店長ベースで、月にどれぐらいのコストをかけて、いくら売上を立てればよいのか?という数字が把握できるようになったことで、目標に向かって団結して経営に参加していく姿勢が生まれました。
管理会計の導入を皮切りに、当社が行ったこと
数字が見えるようになれば、あとは実行に移すのみ。当社が具体的に行った立て直し策をご紹介します。
①不採算店舗をなくす
店舗ごとの採算を明らかにしたことで、不採算店の実態が浮き彫りになりました。
そこで、30店舗→11店舗にすることで、利益を確実に出せる体質にしていきました。
企業経営では、実際にあがった売上の管理=「過去の数字」だけを見ていても会社を良くすることはできません。
今までは「計画」がなかったので、再生の見込みのある店だけに絞った上でKPIを作成することで、何をどう変えていくべきか?という具体策が見えるようになりました。
②掃除、朝礼など基本的なことを徹底する
数字が見えないことにより、責任の所在が曖昧だったり、売上を伸ばそうとか、生産効率を上げようという基本的な従業員に必要なモチベーションが保てず、工場にゴミが散らかっていたり、挨拶などを怠ったりというモラルの低下にまで繋がっていました。
やる気のある人がいない、真面目な人がいないといった「人の問題」だとされていたことが、実は会社の在り方のせいだった…というのは実はよくあることです。
5S、整理整頓などを行いクリーンな工場で効率的に製造し、清潔で気持ちの良い店舗で売上を伸ばす…
当たり前のことを当たり前のように行うためには、その成果が数字となって現れ、正当に評価される必要があるのです。
③考え方の改革
先代から受け継がれてきたはずの「地域に愛されるお菓子を作り、ファンを虜にする」という想い。
その意識がいつの間にか薄れてきていることを感じました。そこで、掲示物や朝礼などで確認し、スタッフの気持ちが一つになるように仕向けました。
ちなみに経営には3Mが大切と言われており、Marketingマーケティング、Managementマネジメント、Mindマインドの3つです。
実は意外と難しいのがこのマインドの部分です。これは放っておいても育つものではないので、さまざまな手法で常々確認することが必要ですし、社長様自らが発信していく姿勢というのも大切になってきます。
④毎月の店長会議
すべての店の店長を毎月集めて店長会議を行うことにしました。
店舗ごとの数値目標を立て、実績と目標の乖離を報告しあうことで店舗ごとに競い合い高めあう企業風土が生まれました。手が足りない店舗に手伝いに行くという助け合いの精神は大切ですが、それらの応援もコストととらえて計算することで採算性を正当に評価することができます。
それにより、自分の店だけ忙しい/暇だといった不公平感が生まれないようにすることができます。
また、会社全体の現状を店長にきちんと伝えておくことで、うちの店は売上が良いのだからもっと給料をもらってもいいはず…という利己的な考えを生むのではなく、店長が幹部候補生として今後の会社経営についての意見を出し合い、経営に参画していくという想いを持っていただけるようにしました。
⑤人事考課制度の策定
店長や社員に会社への帰属意識を高め、経営的な視点を持たせる一方で、正当な評価を下す必要もあります。
やったことに対してきちんと評価をされなければ、モチベーションが下がってしまうからです。曖昧だった評価基準を新たにすることで、人の定着にも繋がりました。
当社でコンサルティングを始めた時は、まず急務だった不採算店舗の整理などを行って2、3年目には利益体質に改善することができたので、4年目に人事考課を策定し、収入にも恵まれ社員も皆ハッピーになった…という流れになりました。
管理会計を導入した結果…
以上のような取り組みを行い、一時は6億にまで落ち込んだ売上を、損益分岐点売上が5億8千万円のためまずは7億円まで戻すことを目指し再出発しました。運よく条件のいい場所を紹介してもらい、飲食系の新業態を始めるなど積極的な投資をする一方で、残した店舗の採算をよくするための取り組みにも励んでいます。現在では無事年商10億を超え、上り基調にあると言えます。
金融機関からの借り入れも少しずつ順調に返し、自社ビルの抵当を外せる見込みもついてきました。先代の名に恥じないようこれからも店を守り育てていきたい、と社長様も前向きな気持ちになっておられます。
管理会計の導入には、最初は社内の反発が強く、一般的に言うとかなり苦労することが多いように思います。
本当に必要なことであっても、周囲の理解が得られないと新しいことを始めるのは難しいです。そんな時、私どものような外部の人間がいることで、スムーズな流れを作ることができます。
会社を変えたい、という思いがあるのなら、自分が変わる勇気もまた必要です。当社がお力添えしますので、一緒に頑張っていきましょう。