中小企業経営者が売上拡大するのに必要な3つのポイントとは
売上の拡大にあたって、商品力・営業力の強化を意識する中小企業経営者は多いと思いますが、単純に「商品が売れた事実」だけにフォーカスして考えても、売上は利益として残りません。
売上拡大のためには、そもそもなぜ売上が出ているのか、その根拠となる部分を理解する必要があります。売上の拡大には、現状把握・目標設定だけでなく、コストの把握や従業員の意識改革も求められます。
この記事では、中小企業経営者が売上を拡大するにあたり、押さえておきたい3つのポイントについて解説します。
現状を把握して目標を立てる
売上増を目指すにあたり、経営者が真っ先に取り組むべきなのは、現状の把握です。
まずは、以下の手順で自社の売上高を確認し、その後目標を立てましょう。
現在の経常利益を知る
通常業務で利益を残せるほどに稼いでいるかどうかは、損益計算書の経常利益を見れば、ある程度イメージできます。よって、まずは経常利益の推移をチェックして、本業の実績に問題がないかどうかを確認していきます。
新型コロナ禍の影響から、当期純利益が赤字になってしまった年があったとしても、経常利益が黒字なら、当面の収益力に問題はないものと考えてよいでしょう。また、経常利益成長率を計算することで、経営が順調なのかそうでないのかが見えてきます。
【経常利益成長率(%)=(当期経常利益ー前期経常利益)÷前期経常利益×100】
現在の経常利益を知り、前期との比較を行うだけでも、経営判断に活用できる情報は多くなります。企業活動の成果として、きちんと利益を出せているかどうかを把握した上で、次のステップへと進んでいきます。
商品・事業ごとの売上高を把握する
複数の商品・事業がある場合、それぞれの売上高を別々に把握しておくことも、売上拡大の戦略を立てる上では重要です。商品・事業ごとに分類することで、それぞれがどれくらいの売上を出せているのかが分かると、注力すべきものが見えてくるからです。
例えば、自社が車両販売・車両修理・携帯電話事業の3つを手掛けている場合を想定してみましょう。単純に考えれば、車両販売は売上額が大きくなって当然ですが、実際に経常利益を見た際に赤字になっているのであれば、何らかの改善策を講じる必要があると分かります。
逆に、車両修理部門における経常利益の成長率が高いことが分かったら、今後は修理の分野で人材を確保しようと考えたり、サービスの強化を検討したりするのが得策と判断できます。
車両販売をメインにしている企業であっても、携帯電話事業の売上・利益が伸びているなら、店舗を増やすなどの戦略を立てる必要があるかもしれません。
利益が残る売上目標を立てる
細かい売上高の数値が把握できたら、どの商品・事業においても利益が残るようにするためにはどうすればよいのか、目標を立てていきます。
経常利益を計算するプロセスでは、売上高から売上原価・販管費等が差し引かれるため、もし経常利益が赤字だとすると、売上原価・販管費等を上回る売上高を目標として立てる必要があります。
後述しますが、利益を出すことにフォーカスするなら、コスト削減にも目を向ける必要があります。とはいえ、売上が上がらなければ利益も出ませんから、現時点で利益が残る売上目標を立てておき、現状と比較してどのくらいのギャップがあるのかを把握しておきましょう。
管理会計を導入する
本業で利益を残すにあたり、いくら売上が必要になるのか計算できても、売上増だけでは利益を残すには不十分です。
後々、新しい事業にチャレンジするなどして、もっと売上拡大に向けて動くことを想定すると、管理会計の導入は重要なポイントになるでしょう。
部門別会計を導入する
管理会計とは、自社の経営に活用するための会計情報を取りまとめることです。
さらに、各部門ごとの成績をまとめることは、部門別会計と呼ばれます。
基本的には、売上が増えて本社以外に営業所等を設けた時点で、部門別会計をスタートさせるとよいでしょう。導入に関しては、一度に完璧なものを導入しようとせず、少しずつ導入を進めると社員の負担が少なくなります。
あくまでも一例ですが、中小企業で部門別会計を導入する場合、以下のような流れで進めるとよいでしょう。
①部門別会計の導入は損益計算書からスタート
※(社員が貸借対照表をこまめにチェックする必要性が薄いため)
②部門分けは、自社にとって重要な科目から行う
※(粗利→人件費→販促費といったように、少しずつプラスしていく)
③それほど重要でない費用は、本社部門などの共通経費として分類する
④商品・事業所・社員ごとに部門を分けるなど、将来的には可能な限り細かく分類して、経営判断に使える情報を増やしていく
実際に、どのタイミングで科目を増やしていくかは、部門別会計の認知度や、経理部・各事業所の忙しさによって変わってくるでしょう。
重要度を決めるのは経営者になるので、売上を出すにあたり不可欠な要素から部門別会計を進めていくと、売上にかかったコストを算出しやすくなるはずです。
売上にかかったコストをチェックする
売上の発生にともなうコストを正しく知っておくことは、今後の企業戦略を立てる上で非常に重要です。一概には言えませんが、粗利の計算はすぐにできても、人件費や光熱費も含めたコストを即座に頭の中で計算できる中小企業の経営者は、それほど多くないのではないでしょうか。
売上コストには、仕入れまたは製造した商品代だけではなく、以下のような費用も含まれます。
- 商品製造および販売にともなう人件費
- 工場で使用した電気代
- 社員が店舗等に移動した際の交通費
- 支店スタッフが業務で使っている備品費 など
これらすべてを、経営者の頭の中だけで集計するのは厳しい作業ですが、経理部やコンサルタントの力を借りることで数値化できれば、どこに大きなコストが発生しているのかが分かります。
部門別会計は決算と違い、数字の取りまとめは社内で自由にルールを決められますから、経営上本当に欲しい情報だけを集められます。改善しなければならないポイントを見分ける意味でも、重要なコストは損益計算書にまとめられるよう網羅することをおすすめします。
一つひとつの数字を明確化する
部門別会計で作成する損益計算書は、決まったフォーマットがあるわけではありませんから、基本的に自社の都合で自由に構成できます。
シンプルなデータでまとめることを経営者が許可すれば、作成担当者はその分だけスピード感のあるデータ送信ができるようになりますし、会議でもすぐ資料としてデータを使えます。
ただ、1点だけ注意しなければならないのは、数字に関しては「現段階で間違いのないよう」集計することです。タイミングによっては概算になるのもやむを得ませんが、あまりにも大ざっぱな数字を出してしまうと、かえって経営判断を誤るおそれがあります。
経営者が本当に知りたい情報・科目に絞って数値を算出することで、一つひとつの数字を明確化するハードルが下がります。
企業活動がきちんと利益につながっているかどうか確認する意味でも、自社にとって「何が正しい数字なのか」を明確にして、可能であれば数式も共有するようにしましょう。
社員の人間力を強化する
中小企業における売上拡大は、社員のマンパワーに頼る部分も少なからず存在しているため、個々の社員の能力は無視できないファクターです。
ただ、社員の成長の方向性について希望することは、経営者が示さなければならないため、スキルだけでなく社員の人間力を強化することもポイントになります。
基本を見直す
社員が経営者や会社に抱いている意識は、その社員によって様々です。ある人は中途採用でも社是を完璧に覚えているかもしれませんし、ある人は新卒から数年経っても社是に興味がないかもしれません。
また、日々の仕事がルーティン化したことにより、その根底にある目的を忘れてしまった社員もいるでしょう。このように、社員一人ひとりが持つ意識の差は、やがて士気にも影響を及ぼすおそれがあるため、あらためて基本的なことを見直す時間を設けることが大切です。
役職者も含め、掃除や朝礼といった基本的なことを人任せにせず、全員が同じ時間に揃って行うのが理想です。オフィスにいるべき全員が同じ時間に集まることで、社員同士の連帯感を取り戻すことが期待できます。
円滑なコミュニケーションに注力する
社員が集まる場において、誰かが意見を言えなかったり、誰かのアイデアが軽視されたりするような状況は避けなければなりません。
会議の場面でも、休憩中の雑談においても、経営者は社員同士のコミュニケーションが円滑に進むような社風づくりを心がけたいところです。
事業内容にもよりますが、例えば社員が自由に座れるフリーアドレス制を導入するなどして、席を固定化せずに仕事をする方法があります。
そこまで極端な方法を取らずとも、席替えをするだけで座る人の気分は変わるでしょうし、自由に休憩できるスペースを増やす方法も考えられます。
業務効率化ツールを使うなどして、オンラインでのコミュニケーションを活発化するのもよいでしょう。どんな案でも構わないので、社員が今以上にコミュニケーションをとりやすい環境を作ることが、後々の成果につながります。
人事考課を経営課題にリンクさせる
社長の一存で決まる人事考課は、企業の経営課題を解決する観点からはスピーディーに評価を導き出せますが、必ずしも社員が納得してくれるとは限りません。
社員のモチベーションが下がると、売上拡大どころか縮小の危機さえありますから、セクションに応じた平等な評価ができる仕組みを設けておきたいところです。
具体的には、各部署の評価点について「現在の経営課題とリンクしているか」という観点から、見直しをかけることをおすすめします。
人事考課の根拠が売上拡大を目指すものであると、社員にしっかり認知できていれば、一人ひとりの努力のベクトルにずれが生じる可能性は低くなるでしょう。
おわりに
中小企業が自社の売上拡大を目指すためには、自社の現状を正確に把握するための手を打ちつつ、社員の意識改革につながる情報の提供・人間力の強化を目指した施策が必要です。
単純に売上高にフォーカスするだけではなく、その背景にある情報を紐解くことが、目標達成への近道になるでしょう。