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事例で学ぶ社長の右腕の育て方【社内の空気が悪いとき】

こんにちは、ファーストステップ株式会社コンサルタントです。

経営者の方からのご相談で特に多いのが、「自分の右腕となるような幹部社員が育たない…」というお悩みです。

創業者の方にいくらビジネスの才能があっても、人脈があっても、人の何倍も稼げるような営業の名手でも、No.2が育っていなければやがて会社は衰退していきます。

会社を成長させていくためにも、危機管理のためにもこのNo.2の育成というテーマが会社を成功させられるかどうかの大きなカギになっていくことは間違いありません。

今回からテーマを分けて、幹部育成についてお伝えしていきたいと思います。

事例から学ぶ、社長の右腕を育てる方法

ある会社の事例を紹介していきます。

当時、年商9億円ほどの海外製品のEC販売事業を行っているS社という会社から相談を受けました。

この会社は、これからEC販売市場拡大の波に乗って会社を拡大していきたい局面であるにも関わらず、どこか伸び悩んでいる様子で、離職率も高く困っていました。海外ルートからの仕入れが必要だという業務上の都合もあり、社長が会社を空けることも多く、現場は古参社員に任せきりになっていることも多かったようです。

そんな折、社長様より当社にコンサルティングの依頼がありました。まずは会社の実体を知るために、幹部社員7名に個別インタビューを実施。

そこで、「最後に何か言いたいことはありませんか?」との問いに、重い口を開いた社員から、社長にもずっと言えなかった本音が飛び出して…。

社長も知らなかった驚愕の事実:社内No.2は最恐パワハラ上司

社長・経営者が孤独を感じる理由

幹部社員7人中6人が外部コンサルタントに直訴した内容、それは、創業初期からの幹部社員で事実上の社内No.2の人間(Y専務)が、酷いパワハラをしていたことです。

社長が社内にいる時はそんな姿は微塵もみせず、温厚な人柄で社長の指示に従い、てきぱきと仕事をこなしていました。

しかもY専務は営業成績も抜群。社長としては信頼して現場を任せられる、非常に重宝している社員でした。ですが、実は裏の顔があったようで…。

Y専務は、社長が不在の時には長時間に渡って1人の社員の成績の不出来を皆の前で責めたり、大声を上げる、机を叩くなどの高圧的な態度は日常茶飯事。しまいには「こんなこともできないのか!」となじったり、「これができなければ、クビだ」と退職をチラつかせて脅すことも。

その餌食となった社員の中には精神的に参ってしまい、退職に追い込まれる人も。

もちろん、他の幹部社員ですらこのY専務に盾つくことはできません。さて、この状況をどうするべきか…?

このNo.2のパワハラ問題を解決するために、私が提案した選択肢は2つ。

Y専務を切るか、それとも…?

優秀な社長の右腕だと目されていたY専務が、実は社内の雰囲気を悪くしていました。

この場合、社長が取るべき戦略は①案、②案どちらひとつ。Y専務を辞めさせることで社員を守るか、Y専務を社長の虜にするかです。

どちらにしろ会社としての痛みやリスクは伴います。しかし、何かを変えていく時には多少の痛みはつきもの。

決断が遅くなれば、ますます優秀な社員は流出し、会社の成長も望めなくなってしまいます。

私は社長に2つの選択肢を説明させていただきました。

選択肢1 Y専務を辞めさせる

本人以外の幹部社員の全員が「Y専務が嫌い」と語っていた。いくら仕事ができる人間でも、社内にとってあまりに害があり過ぎるということなら、辞めさせるという選択肢もあります。

そうすれば、社内は丸く収まるかもしれない。しかし、このような懸念点も…。

  • Y専務が立ててきた今までの売上・利益をどうするか?
  • Y専務がいないことで、仕事上の不都合はないか?
  • 取引先を引っ張って独立を企てるなど、会社にとって不都合な動きをしないか?

やはり社内で力を持っている人物なら、売上にもそれなりに貢献していたり、取引先とのグリップが強かったりといった彼だけが持っている資質や経験、関係性もあることが多いのです。

だから、No.2を辞めさせることで得られる利益と、会社が被る損害のバランスを冷静に見る必要があります。

Y専務の場合は利益ベースで毎期1人で4千万円ほど上げている状況。この数字は、営業社員の中では断トツでした。

それなのに、当時の給料は年収で700万円程度。中小企業としては十分なようにも見受けられるが、社長の年収が1200万円という状況なのはY専務も知っているため、自分の評価が低すぎるのではないか?との思いが拭えずにいました。

どうやらこのあたりが不満に繋がっていたようでした。

選択肢2 Y専務を社長の虜(とりこ)にする

2つ目の選択肢として、Y専務の存在を維持しながら会社を円滑に回していくために、Y専務を社長の虜にするという選択肢があります。

これを行うためには、まず社長自身が、今までのY専務の行いの元凶として、社長の行いに問題があったということを自認する必要があります。

社長から自分は評価されていない…という苛立ちや、社長が求めるレベルの利益を出すために、手段を選ばずもっと部下のお尻を叩かなければ…という間違った焦燥感に駆り立てられ、我を忘れてパワハラを続けていたY専務。

これには、そもそも社長とY専務がきちんとした信頼関係で結ばれていなかったせいだと言っても、過言ではありません。

会社の創業期から社長を支え、決して多くはない給料でも文句ひとつ言わずついてきた、影の功労者であるY専務

このY専務の日頃の働きに感謝するとともに、見合う評価を与えて仕事を任せ、No.2の器になるためにYという人間を、人としても育てていくのが社長の責務だと言えます。

だから、社長もまた今までの行いを顧みることで、このままただY専務のパワハラを責めるのではなく、Y専務と二人三脚で会社を良くしていくという新たな決意を持つのです。

とはいえ、私は「心と心を通わせる…」なんて、綺麗ごとを言うわけではありません。

働きに見合う正当な対価を払い、信頼をきちんと表すことを提案させていただいた。

結論:Y専務を副社長に任命し、昇給させる

今、Y専務を切ったところでまた同じような問題が起きるかもしれない…。

それなら、実力のあるY専務を活用する方法を考えたい…というお考えだった社長。選択肢②を即決し、「彼を虜にするためには、どうすればよいのでしょうか?」と具体的な相談に移行しました。

そこで、私は具体的な戦略をお伝えしました。

  • Y専務を副社長の座に据える
  • 給料を引き上げる
  • 目標達成時には、しっかりと「お祝い」をする

「えっ!そんなことしないとダメなんですか?」と社長は驚きの声を上げました。

問題のある役員を、副社長にするなんて一体どういう考えなんだ…とお思いの方もいるかもしれません。ですが、これはどうしても必要な策でした。

どんなに数字を上げても実力を認められない。安い給料のまま自分ばかりが働かされている。もっと優秀な社員が居ればいいのに、おまえらが不出来なせいで俺は認められない…と、部下に八つ当たりを繰り返していたY専務。

パワハラを止めるためには、社長からの高い評価を本人にも、周囲にも理解させる必要がありました。そして、信頼しているからもっと会社のために頑張って欲しい…というメッセージを示すことで、「やってやろう」という気にさせなければなりません。

昇格や昇給で報いることももちろんですが、現場任せだった社長は今までのやり方を反省して、もっと直接コミュニケーションを取るように変えていく必要があります。

たとえば、目標達成時に社長主催の宴会を開くなど、一見すると小さなことに見えるかもしれませんが、数字目標に対するプレッシャーを背負わせるのであれば、達成時には見合ったお返しをすることが必要です。

その繰り返しが、社員のモチベーションに繋がります。

Y専務改め、Y副社長のその後

この会社の場合は、戦略が見事にハマりました。

現場を見ていなかった社長自身が改心し、積極的に幹部育成にも携わるようになった結果、会社の雰囲気は見違えるようになりました。相談当初は年商9億円だったこの会社は、今では年商40億円ほどまで成長し、Y副社長の下には10名の部下が付いているとのことです。

果たしてY副社長のパワハラはどうなったのか…というと、実はすっかりなくなっていました。

承認欲求が満たされ、十分な給料を貰うことで、働くこと自体により一層前向きになり、会社のため、社長のため、そして自分の家族のため、素直な気持ちで仕事に打ち込めるようになったと言います。

仕事に打ち込むことで社長にきちんと評価され、副社長という肩書きと昇給を経たという成功体験を積んだことは、Y副社長の心にしっかりと刻まれ、No.2としての振る舞いをさせるようになっていました。

目標設定には社長がY副社長に明確な指示を出し、それを部下に実行させます。そして、目標が達成できた暁には、社長は副社長をねぎらい、Y副社長は部下をねぎらいます。

尊敬と信頼でしっかりと結ばれた組織ができ、指揮命令系統もより通りやすくなりました。

正当な評価を得られることで仕事にやりがいが生まれ、離職する人もほとんど出なくなりました。

1人の幹部役員のパワハラ問題をきっかけに、会社が結束し、強い組織にすることができたことは、S社にとって何よりの財産となりました。

社内の不満や、不穏な空気をそのままにしないでください

部下が育たない、幹部社員が育たない、社内の派閥争いが絶えない…など、なんとなく組織が「上手くいっていない」と感じたら、それを放っておくのは危険です。

たとえば、同業と比べて離職率は高くないか?賃金は妥当か?というような目線で、社員の中に不満が溜まってないかを時々確認しておくことは大切です。

社員の不満やストレスをコントロールすることも、実は社長の大切な仕事の一つです。

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